雨漏り原因になり得る「アゴ」と「水切り目地」の憂鬱~RC編~

【地味だが良い仕事をしている水切り目地】

読んで字の如く、水(雨水)の表面張力を断ち切って建物を保護しているのが水切り目地である。水切り目地は、建物の外部のあちこちに存在し自らの役目を果たしている。鉄筋コンクリート造の建物に於いて水切り目地は型枠の組立て作業時に仕込まれる。基本的にコンクリートの下面に組み込まれ、その上に配筋が組み立てられるので、目地棒の取付け忘れがあった場合は再取り付けが困難なため施工時に忘れることが無いよう管理項目に入っていることも多い。その目地は、「軒天先端付近」、「窓庇先端付近」、「パラペットあご下」、時には「梁下」に多く取り付けられている。全ては、建物の壁面に雨を到達させないために計画されている。木造建築では当たり前の納まりもRC造では意図して取り付けなければそのシステムは機能しない。故に取付け忘れには注意しなければならない。また、発泡樹脂系の目地棒で施工した場合、鉄筋等の接触で破損することがあるので作業中も注意が必要である。もしも、水切り目地を取付け忘れたり、もしくは、将来必要になってから水切り目地を設けようとするならば、コンクリートカッターや斫りのみなどを駆使しつつ、上向きで行わなければいけない超難易度の高い作業を覚悟しなければならない。

 

 

【水切り目地はRC造に於いて数少ない雨仕舞である】

コンクリート面に必ずしもモルタルを塗ることが当たり前ではなくなってからのRC造建築に於いて、水切り目地は有効な雨仕舞と言える。モルタル塗り仕上げが当たり前だった頃は「オダレ」という形状で雨水を断ち切っていた。型枠の精度が高くなって打ち放しの工法が当たり前になってからはオダレに代わって水切り目地を用いることになるが、二次防水が存在しないRC造にとって雨の流れを誘導できる一つの知恵だと言える。

そういった雨仕舞上有効な水切り目地だが、たまに存在しない建物を見かける。そして、それが雨漏りにつながっている場合もある。上図に於いて、パラペットのアゴ下に水切り目地が無く、しかも微妙にアゴ下が逆勾配だった時、雨水は表面張力によってアゴ下をつたい流れ入隅付近に到達する。その部分の多くは防水層の立上り端末部分であり、経年劣化によって浸水の可能性が高くなっている部分でもある。図らずもそういった現場に何度か遭遇している。よもや、施工時にアゴ下に水切り目地を入れ忘れた作業員や、気づかなかったであろう管理者は、それによって将来雨漏りの原因になるなど考える由もありはしないだろう。当然ながら責任を問うことも出来はしない。だが、RC造でのせっかくの数少ない雨仕舞をみすみす見逃してしまった罪は軽くない。

とは言っても施工技術も進化しており、後日可能な対策にも選択肢が増えている。パラペットに関しては、ウレタン塗膜防水などを実施するタイミングでアゴテープなどを組み入れれば水切り目地と同じ効果を付与することが出来るようになった。ただ、アゴテープが必要な建物だと気が付かないことには改善も望めない。

 

【やはり敵は中性化なのか?】

水切り目地が雨仕舞に有効な事は理解していただけたと思うが、それによって生じる弊害もある。水切り目地のサイズは、幅が15mm~20mm程度、高さが10mm~20mm程度の物が多く、一般的には15mm×15mm程度の片勾配の目地棒を打ち込むことが多いと思う。ということは、その部分は、それ以外のコンクリート下面とは相対的にコンクリートのかぶり厚さが少なくなる(コンクリートの中性化による鉄筋への影響はコンクリート厚さに比例するため、かぶり厚さの減少は鉄筋保護力の減退も早まる)ことになる。

鉄筋表面からコンクリート表面までの寸法を「かぶり厚さ」といい、数値は部位によってそれぞれ決められている。その数値を勝手に減らしたりすことはできない。しかし、各所目地棒の付近についての見解はグレーゾーンに思えてならない。例えば、パラペット部分のかぶり厚さの基準は30mm(仕上げ無しの場合)となっている。本来であれば左図のように目地底から既定の寸法が必要だと思われるが、右図のようにパラペットの底面から30mmとなってしまっていることが少なくない。もっとひどい場合は鉄筋と目地棒がくっついてしまっている場合もある。その場合、鉄筋は外気に極めて近い状態になっており、不動態被膜も形成されず腐食は型枠解体直後からすぐに始まることになる。

 

【水切り目地の憂鬱】

コンクリートの中性化による劣化はかぶり厚さによってその耐用年数が決まるので、かぶり厚さの減少は鉄筋のの腐食の進行に影響する。よって、目地底に鉄筋が接触しているなどは論外である。アゴ下が爆裂する最大の原因は中性化のよるものが多いと思うがその要因は人的なものが多分に含まれていると言えるのではないだろうか。

建物を守るために設置される水切り目地だが、正しく取り付けていない場合は劣化の原因にもなるということを理解した上での作業を望んで止まない。

読んで字の如く 「水切り目地の働き」とは

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RC(鉄筋コンクリート)造のイメージは?と聞かれて何を思い浮かべるでしょう。「固い」、「丈夫そう」、「重厚感(重い)」、「建築費が嵩みそう」、などいろいろ感じると思います。しかし、そういった見た目のイメージの割には自由な形状のRCの建物が多く見受けられます。ドーム状の屋根や曲線を強調した外観など多種多様な設計が試され建築されて来ました。

昨今は木造建築に於いても奇抜な形や素材を駆使した建物が流行っていたりしますが、RC造と比較した場合、どちらかと言えば木造建築は日本古来の仕様を踏襲しています。その中の一つが雨仕舞だと思います。決して省いてはならない工程や納まりがそこにはあって、細部においても全体においても建物の形そのものが機能的に働いていると言えるでしょう。特に雨仕舞は建物を雨から護る知恵であり末永く住むためには必要不可欠なもので未来まで伝えていかなくてはなりません。

ところが、RCの建築物は強度や法規的に問題が無ければ形状は自由だと言えます。強いて言えば変わった形はコストが増すのでオーナーさんの同意というハードルを越えなくてはなりません。それさえ越えればあとは型枠大工さんの腕でどうにでもどんな形でも作れるという訳です。

その時、忘れてははならないものの一つに水切り目地の適所取付けがあります。上の写真はとあるマンションの解放廊下の天井ですが雨の影響で塗膜や躯体に悪影響が出ています。液体には表面張力がありますので水平な天井では風の手助けなどもあって内部寄りに天井を伝わって来ます。その繰り返しで塗膜が剥がれたりしているのですが原因は水切り目地が無いという事です。

水切り目地とは呼んで字の如く水をそこで切る為の目地です。下の写真では水切り目地の働きによって水が内側に寄って来ていない事が確認できます。

DSC01855※写真をクリックすると動画が見れます

忘れてはならないものや省いてはいけないものってありますよね。個性豊かという名のもとに形や見た目だけに捕らわれた建物だけはご勘弁を。

 

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