タイルの浮きと雨漏りの関係

商売柄、タイル剥離落下の事案をよく見かけます。下地コンクリートの爆裂やクラックなどが起因となっているタイル剥離落下事例は沢山ありますが下地の劣化とは無関係にタイル剥離が発生することもあります。

コンクリート、モルタル、下地調整材、接着剤、そしてタイルはそれぞれの温湿度膨張係数や弾性係数などに差があるため自ずと伸縮率が異なります。日射や湿潤時に発生する材料間の伸縮量の差による負荷を吸収できない場合などに“剥離”すると考えられています。そして、剥離の面積が増えてくると“浮き”として認識されます。

浮きが発生する可能性がある位置はそんなに多くはありません。※下図参照
①コンクリートと下地不陸調整材の間(下地調整材が無い場合はこの限りではない)
②下地不陸調整材とタイル接着剤の間
③タイル接着剤とタイルの間
(④コンクリートとタイル接着剤の間※下地不陸調整材が無い場合)
※①、②は、タイル下地がモルタル塗りの場合は不陸調整材と置き換えて下さい。

それぞれの部材間に於いて異なる伸縮率が存在するため追従できない部位で浮きが発生すると考えられるということは、セメント系材料である下地調整材や接着剤はメーカー毎に成分が異なっていますしタイルは材質や意匠性に於いて多種多様な種類が存在するためそれらの組み合わせの数は想像を超えます。よって、浮きがどの部位で発生するかを読み解くことは困難であると言わざるを得ません。

とは言え、タイルとタイル接着剤の相性は概ね良好な場合が多くその部位の剥離事例は比較的少ないように思われます。また、弾性接着剤を用いることで剥離落下の危険性は改善されているという話も多く聞き及ぶところであります。

さて、その“浮き”の空間に雨水が入り込むとどうなるのでしょう。そして、浮きと雨漏りに因果関係はあるのでしょうか?

ほとんどの浮きタイル面では歪により目地廻りに細かいヒビやタイル面との剥離箇所が多数存在していて雨水が浮きタイルの躯体側空間に到達することは容易だと考えられます。ちなみに、そうした内部湿潤状態のまま日射の影響を受ければ乾燥面と湿潤面とでは温度差が生じる(※)ため部材伸縮のタイミングに時差が生じ剥離が助長されます。浮きは放っておくと徐々に成長してしまうのです。

雨水はタイルと躯体の間に到達しているのであるから雨漏りの危険性も高まるように感じます。しかし、躯体にクラックなどの不具合が無ければ雨は建物に浸入のしようがありません。雨水は空洞内を下方に流れどこかの隙間から排出されているはずです。その時流れ出た雨水にコンクリートなどから滲出した石灰質が混ざると外壁にエフロという形で現れることもあります。

結果、タイルが浮いているだけという状態では雨漏りに発展することはないと言えます。よって、サーモグラフィーなどでタイルの浮きを探し当てたとしても雨漏りまで改善できる条件が整うとはとても思えません。雨漏りは、適正な「雨漏り調査」によってのみ原因を解明することが可能なのではないでしょうか。

 

(※)この時の温度差をサーモグラフィーで読み取ることで浮き部分が分かるとされている。

 

雨漏りの原因調査に於ける散水作業で高圧洗浄機の使用は有りか?

沖縄では梅雨入りしたということで、今年も梅雨が始まりましたが皆様はいかがおす過ごしでしょうか。

今日は東京でも朝から雨が降っていて外仕事の方々を悩ませています。その雨の日でも行える数少ない作業の一つが“下地の洗浄”です。たまたま今日が洗浄作業予定日だったので工程に影響が出る事無く作業を行う事が出来ました。ラッキーでした。

この洗浄作業で使用する機械が「高圧洗浄機」です。最近では100Vの電源で駆動する家庭用のものも普及していますが、塗装作業で使う洗浄機はエンジン式のものでそれなりの高圧水を噴射できます。

 塗装下地の洗浄中

一般的に下地洗浄に適当だと言われよく設定されている水圧は15MPa程度でしょうか。15MPa(メガパスカル)は従来のメートル法での単位では約153kgf/㎠(キログラム重毎平方センチメートル)のことです。
1センチメートル四方のスペースの上に力士の遠藤が乗っているくらいの圧力です。ピンヒールを履いた遠藤が片足立ちしている状態で踏まれるくらいの圧力という事です。(>_<)
水道水の標準的圧力が0.2MPa~0.6MPaの範囲なので比較するとその圧力は危険レベルと言えるでしょう。(実際の洗浄では状況に応じて低圧で使用することももちろんあります。)

さて、それだけパワーのある高圧洗浄器ですが、はたして散水調査用に使用できるものなのでしょうか?というのも、先日、インターネットで高圧洗浄機で散水調査を行っている動画を発見したものですから・・・。(少し驚き)

強すぎませんか?
散水調査は雨漏りした時の状況に近い条件で雨漏りを再現することが基本です。シトシト降る梅雨時の雨漏りなのに、その散水調査を高圧洗浄機で行って正しい結果が導き出せるでしょうか?

確かに、強風を伴う台風時に発生した雨漏りなどの場合は実際の状況に近いこともあるかもしれません。それでも通常のノズルのジェットモードで対応できると思いますし今までそれで再現出来なかった事はありません。台風や渦巻く強風の時と通常の雨天との違いは、普段は雨が掛からないところにも雨が到達するという事であり、決して高圧洗浄機並みの雨がいつまでも掛かり続けるという事ではないと考えますが皆さんはどう思いますか?

あんなにも強力な水流で散水をしたらどんな場所からでも雨漏りになってしまうのでは?その結果をもって「雨漏りの原因が判明した」としているのならば懸念すべき事態だと言わざるを得ません。また、同じような意味でサーモグラフィだけで雨漏り診断が可能と言い切る業者さんもいるようですが、温度で分かるのは、残存水分の位置という雨の通り道かもしれない場所であって、雨の浸入口を言い当てるという事を約束しているのであればそれは根本的に無理があります。例えば、外装がサイディングで通気工法の建物の場合、表層のサイディングの温度だけで二次防水層の不具合を読み取ることは難しいはずです。私たちも場合によってはサーモグラフィを使用しますがそれはあくまでも補助的な活用に留まります。

独自手法を否定する気はありませんが出来ない事は誰がやっても出来ないはずです。時間を短縮して結果を出そうという試みには共感しますしそれに越したことはありませんが、依頼者が求めるものは「正しい結果」だという事を忘れてはいけません。

 

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。